つまり日々の生活の一部を切り取ってみたら、
意外と自分たちの気づかない風景があったりする。
普段は気づかない「日々の生活」・・・
津シルバーケア豊壽園の西館と呼ばれる建物は、洗心福祉会の中でも最も大きな、というより最も人口密度の高い建物である。中庭を囲むように『コの字型』をした建物には、「介護老人保健施設」「ケアハウス」「デイサービス」「デイケア」という5つの事業が入っており、日中にはご利用者様と職員合わせて250人の人間がいることになる。その西館の中でも最も賑やかなのが、1階のケアハウスロビーからリハビリルームまでの大通りである。
この「大通り」途中に喫茶コーナーがあることから、敷地内のあらゆるところから人がやって来て、タマリ場となる。ご利用者様やご家族様、職員など、お昼過ぎの西館探訪は、色々な『日々の生活』に出会う。
お昼もまわった12時45分。
喫茶店にコーヒーを飲みに、ご利用者様がちらほら集まって来る。
その中のお1人、中山貞代さんは、毎週土曜日のこの時間はお友達と必ずコーヒーを飲みにやって来る。デイケアをご利用になって今年で10年目、そんじょそこらの職員よりキャリアがある99歳である。デイケアに通って来る他のご利用者様からは、何故か「おばさん」と呼ばれている。「今日もコーヒーですか?」と尋ねると
「いいえ、この暑さですから今日は違います。アイスクリームとコーヒーフロート下さい。」
と通な注文をされた。

エアロビもやっていたという運動好きの中山さん、何事も指先をピンと伸ばす仕草がそれを物語っている。スノーアフロとでも名付けたくなるトレードマークの髪型は、2ヶ月に1回美容室で整えている。「わたし最近病院行ったことありません。こないだまでは行ってましたけど。60歳くらいの時です」
中山さんにかかると、40年前というのは「こないだ」なのだ。
「健康の秘訣は汗かきなことです」
と言いながら、中山さんはコーヒーフロートを「ちゅー」と飲んだ。
喫茶店の隣には、何にでも使ってよい部屋、通称「多目的ルーム」がある。ここには毎週月、水、金曜日に鍼灸師の黒田さんがマッサージに来てくれる。
12時から始まるマッサージサービスの整理券はまたたく間に減っていく。
「はい、では順番が来るまでそちらのマッサージチェアに座ってお待ちください。そちらのチェアの方が私よりちょっと上手です。」
と黒田さん。
軽快なトークとマッサージで身も心もほぐれていく・・・。
喫茶コーナーからデイルームを抜け、お風呂に通じる廊下に張り付くようにして将棋を指す2人。「どっちが勝ってるんですか?」
「・・・・・・・・。」
「よく対戦するんですか?」
「・・・・・・・・。」
どちらにしても、もっと広いところでやればいいのに・・・。
静かに将棋を指す二人のすぐ横で、歌を大合唱している一団が。
ここはカラオケコーナー。カラオケといってもマイクは2本しかないので、知ってる歌はみんなで大合唱している。ちなみにこの時は「傷だらけの人生」。
"古い奴だとお思いでしょうが、古い奴こそ新しいものを欲しがるもんでございます。"
「そーそー」(合の手)
"どこに新しいものがございましょう。"
「年寄りばっかりやでな」(合の手)
"生れた土地は荒れ放題、今の世の中、右も左も真っ暗闇じゃござんせんか"
「豊壽園に来るしかないわなー」(合の手)
カラオケルームを横目に細い廊下の突き当たりを抜けると、リハビリルームが広がっている。
お昼休みの時間を思い思いに過ごしたご利用者様や、休憩明けの職員がスタンバイし始める。
リハビリルームで低周波治療を終えたご利用者様2人が、そぞろ歩きに出ようとしている。誰が言ったか、
「年を取ると静かなところがよくてねえ…」
確かにそんな時もあるだろう。だけど、人は甘いものが好きで、おしゃべりが楽しくて、マッサージが楽しみで、歌うことで発散して、
そぞろ歩きが好きなのだ。
いくつになっても好きなのだ。

